ヘアデザインによる命のART表現
現代美術作家 SAYURI USHIO
未来につながる今を楽しむ
隠すから魅せる
初めての癌告知
今から18年前。
入浴中に『あれ・・・?』と指先にしこりのようなものを感じた。
いやな予感がした。
予感は的中で、乳癌だった。
当時、わたしは37歳で3人の子育て真っ最中。
自分の身体をいとう間もなく、家業の手伝いと子育てに明け暮れる日々が続いていました。
追い打ちをかけるかのようにその5年後に夫が急逝し、わたしは3人の子供達のシングルマザーとなりました。
当時の私は、子供達を立派に成人させなければ!この一心でがむしゃらに働く日々、1日いちにちを生きることに精いっぱいでした。
初めて乳癌の告知を受けてからの18年間は、肺転移、骨転移、そして現在は肝臓を癌が蝕み、癌と共存して生きてきたように思います。幸いに食べるものも美味しいし、痛みに苦痛をともなうことは全くありませんでした。
抗がん剤治療
2021年の夏の終わり。
肝臓に癌が転移しているのがわかり、抗がん剤治療をスタートすることとなりました。
医師からは、抗がん剤の副作用で髪が抜け落ちるので、事前にウィッグを準備しておく方がよいと勧めらました。
わたしは、勧められるまま、治療に入る前にネットで調べたり、数軒お店を探したりしました。
金額もピンキリで、高いものでは40万円くらいするものもありました。
治療にもお金が必要で、ウィッグにそんな高額な金額は使えないと感じました。
結果として行きつけの美容院に相談し、治療の前になんとか準備をすることができました。
2021年9月15日、1回目の抗がん剤治療がスタート。
そして、9月22日に2回目の治療。それから1週間を過ぎた頃に異変がありました。
医師から言われていたとおり、脱毛し始めたのでした。
長くしていた髪を私は初めてショートにしました。わたしはもともと髪の量が多く、強いくせ毛でコンプレックスをもっていました。
小学生の頃は、髪がボリュームがでるのがいやで、スカーフを巻いて寝ていたくらいです。
昔から、私にとって『髪の毛』はやっかいな対象物でしかなかったのです。
そのやっかいな対象物であった髪の毛が、抗がん剤治療が始まってから、約2週間
後の10月1日には、1本残らず全て抜け落ちてしまいました。
ドラマでそのようなシーンを見ることがあったけど、自分のふりかかった現実を意外と冷静に受け止めた。どこか第三者的に見ている・・・そんな自分がいました。
排水溝が真っ黒になるくらい溜まった抜け落ちた髪の毛を拾いながら、『髪の毛』が女性にとって大事なものだということを初めて実感したのでした。
隠す生活
髪を失った後、ウィッグ生活が始まりました。
どこに行くのも手放せませんでした。
抗がん剤治療をすると免疫力が低下し、肌も傷みやすく、ウィッグにかぶれて湿疹が出ることもある。それでもウィッグなしの生活は考えられませんでした。
外出の時だけではなく、家で過ごすときにもお風呂に入るときでさえ、ニット帽をかぶって過ごしていました。
抜け落ちてしまった時に冷静に受け止めることができた私でしたが、どこか髪の毛が無い自分と正面から向き合うことを避けていたのかもしれません。
ウィッグを外すきっかけ
夫との死別後、子育て中心の生活で自分の生活を後回しにしてきた私でしたが、1年半前にある出会いがありました
それが今の夫との出会いでした。彼に闘病中であること、自分の身体の状態を全て話したときに彼は全く動じず、私の全てを受け止めてくれたのでした。
そのことが何より嬉しかったです。
そんな彼が、私の髪が全て抜け落ち、ウィッグ生活を余儀なくされている姿を見てこう言ったのです。
『もうウィッグ外し』
私は『えっ‼』と躊躇したのですが、彼はこう続けました。
『周りの人もウィッグかぶっているのは見てわかるんだから、余計に気を遣わせるだけだよ。せめて俺の前では外し』
こんな状態の頭を見せて良いのだろうか・・・不安が交錯しました。
彼の言葉に勇気づけられ、背中を押される形で私は抗がん剤治療で髪を全て失ってから約3ヶ月半後にウィッグを外したのでした。
隠して過ごす生活は苦痛でしかありませんでした。
再生
ウィッグを外し、ありのままをさらけ出して生活するようになりました。
もちろん、彼の前でも友達の前でもどこへ行く時もありのままの自分で過ごしました。
それからほどなくして、約1ヶ月後の2月17日、彼とわたしは入籍しました。
人生、生きていると悲喜こもごも。
辛いことも、悲しいことも、嬉しいことも、楽しいことも・・・
泣いて、笑って、あっという間の人生です。
わたしは、いま生きている、生かされている。
私の髪は全て抜け落ちた後、赤ちゃんのような髪の毛が生えてきました。
以前の髪質とは違う、とても柔らかい毛。赤ちゃんと同じ。
赤ちゃんのように自然のままに生えた状態の頭を見て、早百合さんが言いました。
『わたしがもっと可愛くしてあげる』
鏡の中にいる早百合さんと私。
ドキドキ、ワクワクが止まらなかった。
鏡の中のわたしは、早百合さんに魔法をかけられました。
そこには生まれ変わった私の姿がありました。
私の髪の毛も私自身も生まれ変わったのです。
もう、隠す必要なんてない、堂々と街を闊歩できる。
癌になって、抗がん剤治療で髪が抜け落ちで、外出する気にもならず、家の中で過
ごしてばかりなのは勿体ないです。
命ある限り、お洒落も楽しんで、恋をしたり、季節の風を感じたり、感動したり、
今日という日があることに感謝したいと思います。
Miyako
2021年11月で、抗がん剤治療が終了
制作当日(2022/5/3) 直前に撮影
萌木葉の如く、毛先が産毛
とても美しい
セレモニー(ヘアカット)後のヘアデザイン
セレモニーにより生まれ出たメッセージを 真っ白のTシャツに刻む
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